いよいよ連載がはじまりました「給湯流茶碗の旅」の第二回、これから名物茶碗をどんどん紹介して参ります。
給湯流茶道とは何か?を第一回でご紹介させていただいたのですが、「なんだそれは?」状態が続くと思いますので、しばらくはしつこく書かせていただきますと戦国時代に茶道に興じた大名にならって「現代の戦場、オフィス給湯室で抹茶をたてる団体」です。給湯室以外にも劇場など茶室に見立てられそうな場所に赴いては全国各地で茶会を繰り広げています。
さて、第二回に紹介するアニメ茶碗の作品名は「ハクション大魔王」(1969-1970年放送.全52回104話)。1979年生まれの筆者にとっては、再放送や、懐かしのアニメ特番で見かけた作品です。50年以上も前の作品なので実際に観たことがある方はあまりいないような気もしますが、七福神の大黒さんと中東のアラビアンナイト風味を掛け合わせた縁起ものっぽさのおかげかキャラクターとしての人気は健在らしく、CMなどにしばしば登場しています。
内容はタイトル通りクシャミをするとランプから出てくる大魔王と少年がドタバタするギャクアニメの名作なのですが、特筆すべきなのがドタバタから一転する哀惜感あふれる最終回です。私も、懐かしのアニメ名場面特集で最終回だけ何回も見た記憶があります。
日常のドタバタを1年近く見続けて夕飯時間帯の日常の一コマになった頃に最終回で一気に調子が変わるわけですから当時の子供たちに与えた印象はなかなかのものだったのではないでしょうか。
サイクルの早い令和の今日では、30分52回104話も続けられるテレビシリーズ作品なんて想像もできないぐらいです。今後、そうそう生まれないでしょうからアニメ制作環境としては稀有な時代だったと言えるのかもしれません。
人気作ではありましたが続編が出せるような締め方の最終回でもなく「呼ばれて飛び出て ジャジャジャジャーン」(大魔王)、という印象強い名セリフが完結後も長らく流布していたのですが、なんと2020年に続編的にリメイクされていました。
この作品の基本ルールはクシャミをして大魔王をランプから呼び出した人が願い事を叶えてもらえるというものです。なのに、2020年の続編では主人公の少年(前作の主人公の孫)にやりたいことがない!という状況でスタートするそうです。なんとも現代的!
これはいろんな業界がぶちあたっている悩みかもしれません。メーカーは作りすぎに悩んでますし、ユーザーは断捨離サービスにお金を払わないといけないほどです。2020年版の作品中ではどう決着するのでしょうか。気になります。
ところで、本題の茶碗です。こちらをご覧ください。
なに、この点!
工業製品にはエラーが許されないのが常識になっていますが、この時代のアニメ茶碗には稀にこのようなエラーがあります。おそらく製造中に何か顔料が落ちてそのまま焼かれてしまったのでしょう。給湯流では、このようなエラーを愛でるのも楽しみの一つとして大事にしています。
ちなみに、茶道では茶碗の釉薬のひび割れやランダムな濃淡を「景色」といって愛で楽しむ文化があります。さらに、その景色にちなんだ「銘」をつけます。
2022年は国立博物館設立150周年ということで国宝展が大人気開催中ですが、国内でつくられた茶碗の国宝は二つだけあり、そのうちの「志野茶碗 銘卯花墻(うのはながき)」は、茶碗の様子が歌の情景を連想させることから歌の一部が銘になっています。
志野茶碗は、岐阜県・美濃地方でつくられたものを指しますが、下絵の絵の具で素焼きの器にに絵を描いてからその上に釉薬で白くコーティングするので、絵が透けて見えるのが特徴で、形も荒く削ったり、歪ませたりしているので見る場所によって変わります。
例えばこんな様子です。
釉薬がない部分が側面にまではみ出すわ、飲み口は歪んでいるし、小さい穴がポツポツあいて赤くなっていたり、岩山に登った時の景色を見ているようでもあります。戦国時代が事務仕事が増えてきた時代だとしたら、多忙の中でも茶碗で野山遊び気分を味わいたかったのでしょうか。
さて、われらがハクション大魔王茶碗をもう少し見てみましょう。
ハクション大魔王のフォントも味わい深い、と思って眺めていると、なんとさきほどの点が透けて見えるではありませんか!これは面白い!浮かび上がる点をしばらく眺めているとその時の気分で大魔王の鼻か、とんがり帽子の先端のボールか、想像するものが変わりそうです。
裏返してみてもまた味わい深い…。色が輪郭線からはみ出していたりと、ぎちぎちの書類仕事に明け暮れる私たちに「完璧を求めなくていい」と語りかけてくるようです。思えば、小学校入る前から塗り絵で線の内側に色を塗ることを求められてきた私たちですが、そればっかりが表現というわけでもありません。
ということで、この茶碗の銘は「ハクションポロック」となりました。皆様、給湯流の茶会でお目にかかる際は「これがあのハクションポロックですか」と言っていただければ楽しいかと思います。
それでは、ごきげんよう。
伊藤洋志(茶名.飛石連休)
仕事づくりレーベル「ナリワイ」代表。シェアアトリエの運営や「モンゴル武者修行」、「遊撃農家」などのナリワイに加え、野良着メーカーSAGYOのディレクターを務め、「全国床張り協会」といった、ナリワイのギルド的団体運営等の活動も行う。
執筆活動も行っており、新著に『イドコロをつくる乱世で正気を失わないための暮らし方』(東京書籍)がある。ほか『ナリワイをつくる』『小商いのはじめかた』『フルサトをつくる』(すべて東京書籍)を出版。
給湯流公式サイト:http://www.910ryu.com/
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伊藤洋志個人:https://twitter.com/marugame